「生酛(きもと)」「山廃酛(やまはいもと)」「速醸酛(そくじょうもと)」とは日本酒の製造方法になります。それぞれの製造方法によって日本酒の味わいや風味などに大きな影響を与えていきます。
日本酒の製造方法
日本酒の製造方法の中で、アルコールを生成する酵母菌を増殖させる工程が必要になります。この酵母が増殖する中で、有害な雑菌も増殖することになってしまいます。
そのため、日本酒を作る時は、仕込みに使う原料の約1割弱に相当する米と米こうじと水だけを小さなタンクに入れ、酵母菌を増殖させてから大きなタンクに移します。これにより、有害な雑菌の増殖を抑えつつ、酵母菌を増やせるのです。
この日本酒の元になる、酒母を作ることからこの工程を「酛」といいます。
この「酛」は生酛系酒母の「生酛」と「山廃酛」と速醸系酒母の「速醸酛」の3つの方法があり、今回は3つの特徴や違いについて詳しく説明していきましょう。
生酛系酒母とは
酒蔵内に生息する乳酸菌を取り込み、繁殖させて乳酸菌を得る方法になります。
酒母になるまでの所要期間は約1ヶ月程度かかり、酒母になるまでの工程に多くの手間が掛かり、醗酵段階も完全醗酵させることから時間が掛かります。高い技術と労力が必要とされる方法ですが、しっかりした味わいの日本酒が完成します。
作業工程の違いにより生酛、山廃酛の二つに分類される。
生酛とは
生酛造りでは、自然の乳酸菌から乳酸を培養させるために、米と米こうじを、櫂(かい)という道具で擦り潰してドロドロにする「山卸し」という作業を行います。これにより天然の乳酸菌から育成して乳酸を作り、アルコール発酵を促す。この発酵に1ヶ月程かかります。この乳酸菌は酒蔵についている自然の乳酸菌を使用して発酵させるため、酒蔵独自の味わいが生まれると言われています。
「山卸し」の作業がもの凄く重労働という点と発酵に時間がかかるので、現在の日本酒の製造方法としては少数派になります。しかし、先程説明させて頂いたように酒蔵独自の味わいが出るため、この方法にこだわって製造している酒蔵も存在しています。
山廃酛(山廃)とは
山廃酛(山廃)造りとは、生酛造りと同じく酒蔵に付いている自然の乳酸菌を使い、アルコール発酵を促す方法になります。生酛造りとの違いは、「山卸しという工程を廃する」ことから、略して、「山廃」というようになりました。
山卸しを行わずにアルコール発酵を行えるのか?山廃酛では、「麹」の力によって米のでんぷんが糖に変わり、糖が酵母に働きかけることでアルコール発酵を促します。これは時代が進んだことによってできたものになります。詳しくいうと、酒造好適米の登場や精米機の機能向上、でんぷんを糖に変える働きが強い麹菌の発見など、複数の要因で山卸しが不要になったと考えられています。
「生酛」と「山廃」で味わいや風味にどのような変化が生まれるのか?これは酒蔵さんによって、多様な意見があります。
「山卸し」を行っている酒蔵さんは、酒母に含まれる成分が均一になることで、より良い日本酒を造れるという意見を持っているところが多いです。一方で、「山卸し」を行うことで、酒母内の環境に問題が起きて味や香りに支障をきたすという意見を持っている酒蔵さんがいらっしゃいます。
「生酛」と「山廃」に関しては、酒蔵さんの思いや信念がありますので、それぞれの酒蔵さんがより良い日本酒を造るために日々尽力しています。
速醸酛とは
速醸酛は、醸造用乳酸を加えてアルコール発酵を促す製造方法になります。
乳酸を加えて、酸性度が高まることで有害な雑菌の繁殖を抑えられます。酵母菌は酸性度が高い環境でも増殖可能なため、安全にアルコール発酵が可能になります。
速醸酛は、明治時代に生きた岸五郎と呼ばれる人物によって可能性が見出され、科学的見地に基づいた酒造りを可能にしました。また、乳酸を加えることで有害な雑菌の増殖を抑えつつ、酵母を増殖できることを発見しました。その後、醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)に在籍していた江田鎌治郎によって、速醸酛が確立されました。速醸酛が確立されたことにより、雑菌の侵入・増殖防止、品質の安定、製造の効率化があります。特に製造の効率化に関しては、乳酸菌が乳酸を生産するまで待つ時間がなくなったため、今までの半分の15日程度で製造出来るようになりました。
日本酒のラベルに「生酛」「山廃」の記載がないものは速醸酛で製造されています。
割合でいうと、速醸酛:山廃:生酛=90:9:1
日本では主流な製造方法になります。