手作業にこだわり、熊谷唯一の地酒を造るー埼玉県・権田酒造が考える「地酒を造るということ」

春になると「日本さくら名所100選」に選ばれた熊谷桜堤が、夏になると日本一暑い街と言われている埼玉県熊谷市の権田酒造は、昔から地元に愛されている酒蔵になります。

権田酒造の代表的な銘柄は「直実(なおざね)
こちら熊谷の武将の熊谷直実の名前から取られたお酒になります。
米の旨みがしっかりとあり、お酒好きの方が好む味わいだと感じました。
冷酒ではすっきりとした味わいなのですが、燗酒で飲むことによって米の旨みがこれでもかというくらい出てくるお酒になります。
「直実 辛口」は「全国燗酒コンテスト2023」で金賞を取っている燗酒に適しているお酒です!

そんな「直実」の兄弟ブランドとしてあるのが「弓矢丸(ゆみやまる)
こちらは7代目である権田直仁さんが、考案した銘柄で、熊谷直実の幼少期の名前が「弓矢丸」という名前でしたので、そこからつけられたとのことです。
こちらは「直実」とは対照的にフルーティーの中に酸味を感じられ、日本酒が苦手な方でも飲みやすい飲み口だと感じました。

しかし、面白いことにこちらも燗酒にして飲むと旨みが出てくるお酒なんです。
権田酒造のお酒はどの温度帯で飲んでも楽しめるお酒になっているので、4合瓶では満足できないかもしれません!

地元に根付き、地酒を造り、そして地元民を魅了し続ける権田酒造の秘密とこだわりに迫っていきたいと思います。

手作業にこだわって地酒を届ける

1850年(嘉永3年)創業の権田酒造のある埼玉県熊谷市の名前の由来は諸説ありますが、一説によると熊谷直貞(当時の平直貞。熊谷直実の父)が、この地域に存在した熊を退治したことからきていると言われています。

熊谷市で約170年の歴史を積み重ねてきた権田酒造は手作業にこだわっているのです。
今回、蔵の案内をしてくださったのは、笑顔が素敵な権田兄弟の弟・権田拓弥さんです。
お兄さんは7代目として活躍されております。

このお二人に権田酒造のこだわりや思いについてお話しを伺ってきました。

7代目の権田直仁さん(写真左)と7代目予備の権田拓弥さん(写真右)

「埼玉県って酒造りのイメージを持たない人が意外と多いんですけど、実は32蔵あるんですよね。
というのも埼玉県は荒川と利根川があるので水が豊かな地域なんです。
熊谷はちょうど2つの川の中間にあったので昔は何軒か酒蔵があったんですけど、他のところはやめてしまって、今はうちだけになってしまいました。
そういうこともあって、熊谷の最後の酒蔵として地元に密着してるんですよね。

地元密着でいうと、熊谷にある大学とコラボしたんですよ!
酒造りはかなり大変なので、ブレンドする形はどうですか?と学生に提案して、私たちの造ってるお酒を「友人と飲むお酒」「親と飲むお酒」というテーマに沿ってうまく混ぜ合わせて、学園祭で販売しました。
コラボした大学の学生にラベルのデザインを頼んで、「立咲-RISSHO-」という日本酒を今でも売り続けています。

他にも熊谷の姉妹都市であるニュージーランドのインバーガーギル市の方が来日した時に、うちの蔵に招待して宴会を行ったり、地域のバンドの方などを呼んで、お酒を飲みながら音楽を楽しむということもしています。」

蔵見学や説明をしてくださっている弟・拓弥さん

「酒造りでは、酒米は山田錦・埼玉で開発されたさけ武蔵(熊谷産)・加工米を使っています。
さけ武蔵は溶けやすい性質のお米なので、他のお米と比べて米の味わいがしっかりとあるお酒を造るのに適してます。

このお米たちを酒造りをする際に洗うのですが、うちでは普通酒は機械、吟醸酒系などは手洗いで洗米しているんです。
というのも優れた機械はあるのですが、手洗いの方がお米が割れないので手洗いにこだわっています。正直手洗いは大変なのですが、お客さんに私たちが良いと思って造った日本酒を飲んでもらいたいので妥協せずやっております。

麹室:麹を発酵させるための部屋

「ここがうちの麹室になります。
道具がいっぱいになっているんですけど、酒造りが終わったらこの中が一番清潔に保たれているので酒造り関連の道具はここにしまうようにしています。

ここで洗米して蒸したお米を広げて種麹を撒き、麹を育てていくんです。
酒蔵によっての木の乾燥具合などの様々な環境によって、麹の生育具合は違ってくるんです。
うちは生育が遅かったので、沢山種麹をつけるため、うちわで仰いで造っていたのですが、酒造りの先生に聞いたところ均一についた方がいいと言われて、うちわで仰ぐのは廃止しました。
まだまだ若手で経験不足な部分もあるので、日々試行錯誤し酒造りをやるのが楽しいんですよね。

麹を生育する期間は兄が基本的に麹の番をするのですが、昼夜問わず1.2時間おきに麹の様子を見て温度などを管理してくれています。

うちは大体10月頃から3月頃まで酒造りを行っているのですが、その期間のうち合計で2ヶ月間ほどは麹を確認するので、その期間の兄はいつも眠そうに仕事をしています笑
大変ですけど、酒ファーストなので!!

地酒蔵の多くはおそらく、このように確認しているんじゃないかと思います。
もしかしたら長年の経験からうまくやられている方もいらっしゃると思うのですが、私たちはまだまだ経験も浅いので、細かく様子を見て時間と量でカバーしています。」

「うちではこちらの手作りの木のスコップをお米を掘り出すのに使ったりしています。
昔は新潟から蔵人たちが来てくださっていて、その方々は冬以外の季節は大工をやったり、農家をやったりと手先が器用だったので、こういう道具を自作していたんですよ。
それが今でも残っていて使っている感じになります。

兄が言っていたのですが、大きい酒蔵さんに伺わせていただいた時に、大きい酒蔵さんですとたまに博物館や展示施設が併設されていて、その展示施設に同じような木のスコップが昔の道具として飾られていたらしく、「うちはまだ現役なんだけど、、、笑」ということもあったそうです。笑」

分析室:日本酒の状態を把握するための色々なデータを取るための部屋

「この分析室でお酒がどんな感じで発酵が進んでいるかなどを数値で見ているんですよ。
日本酒の数値というのはアルコール度数だけじゃなくて、日本酒度、酸度、アミノ酸度などがあるので、例えばですけど、アルコール度数で発酵の進み具合を見たり、アミノ酸が急激に増えたら酵母が死んじゃってるっていうことがわかったりなど、これらの数値を分析しながら日本酒づくりに取り組んでいます。

日本酒造りは一般の人からすると長年の経験、職人の世界というイメージがあると思います。
もちろん経験がものを言う世界ではあるのですが、化学の部分も大きいです。

日本酒から取れる数値データを確認しながら、造りたい味わいや香りを造るために今日はこれをやろう、明日はこれやろうとった形で酒造りを進めています。
あとはアルコール度数が酒税に関わるのでしっかりと数値を取らないといけないというのもあります笑」

「こちらにあるタンクを使っており、仕込みは3段仕込みでやっています。

お酒を仕込む際なのですが、他の酒蔵さんではジャケットというタンクの周りに水が流れるものを使い冷やすことが多いんですよ。
けれど私たちは仕込みの際に水の代わりに氷を使って温度を下げるようにしたり、暖気樽(だきだる)というステンレンスの容器に氷を入れて、この暖気をタンクの中に入れて冷やすことにより、低温で発酵させています。

母がFacebookに日本酒関連の投稿をしていて、この暖気樽(だきだる)を投稿したら、『権田さんまだそれ使ってるの?』と言われました笑」

この機械で槽掛け(ふながけ)という方法を使い、熟成した醪(もろみ)を絞っています。
多くの酒蔵さんでは薮田式の絞り機(アコーディオンのような見た目)を使っていることが多いので、珍しい方かなと。

薮田式は短い時間で一気に絞れるのでフレッシュな日本酒を取れるというよさがあり、槽掛けは圧力が弱いので絞り切るまで時間がかかるのですが、圧力が弱い分余計なものが日本酒に入らないという良さがあると思っています。

絞りに時間がかかるので、最初・中盤・最後で味の変化があるのも面白いところです。
しかし、ここに関しては酒蔵の狙った味わいがあるので、薮田式がいい、槽掛けがいいはそれぞれだと思いますが、私たちの狙った味わいには槽掛けが良いのです。

それぞれの酒蔵が良いと思うお酒を考え、それを造るのが酒造りの面白さだなって感じます!」

「今日見ていただいて感じたかと思うんですけど、うちの酒造りって他の酒蔵とも比べても手作業でやることが多いんですよね。

良し悪しだと思うのですが、手作業でやることで“お酒を造ってる”“酒に寄り添った酒造り”を感じられるんですよ。
必ずしも手作業=“美味しい”、“良い”というわけではないと思うのですが、私たちは手作業で造ることにロマンを感じますし、楽しいです笑

ここが権田酒造の自信を持って強みであり、個性であると言えます!!
あと周りの方からは兄弟でやっているのが、キャラ立ってるねとよく言われますね!」

「熊谷といえば“日本一暑い街”、“埼玉パナソニックワイルドナイツ(ラグビー)”、“熊谷桜堤の桜”というイメージがほとんどなのですが、ここに権田酒造も入るようにしたいんですよね。

まずは地元にもっと認知してもらわないとなってのは思っていて、
というのも熊谷のイベントに出展させていただいたりすんですけど、熊谷に造り酒屋あるの?って言われることもありまして。

だからこそ、直近の埼玉県春季清酒鑑評会で、メインブランドの直実が入賞したこともあるので、改めて兄弟でどんどん権田酒造を広めていきたいと思っています。
いずれは地元の方にも愛され、そして地元以外にも愛されるように。」

権田酒造は地酒蔵として地元に愛される酒造りをしている一方で、新しいことに日々チャレンジし続けているのが伺えました。
多くの人が権田酒造のお酒と出会えることを祈ると共に、若手二人の今後のチャレンジに注目です。

酒蔵情報

直売店でお酒の購入ができますのでぜひ足を運んでみてください

  • 酒蔵権田酒造
  • 場所::〒360-0843 埼玉県熊谷市三ヶ尻1491
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  • TEL:048-532-3611
  • 直売店営業時間:
    月曜日〜土曜日、9時00分〜18時30分
    日曜・祝日定休日
    ※年末は31日まで無休の予定。新年は7日から。
    店頭販売などで急遽お休みになることがあります。
  • HPからのオンライン購入も可能です。
    URL:https://www.sake-japanese.shop

  • Sake journal運営者

    多くの人に大好きな日本酒の魅力を伝えたいと思い「Sake journal」を開設。

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