埼玉県・佐藤酒造店の若手女性杜氏 ー 伝統を引き継ぎ、“喜怒哀楽に寄り添う優しいお酒”造り

JR八高線・東武越生線の2線が通る越生駅から車で約5分。
1844年(弘化元年)創業され、2024年で180周年を迎える埼玉県入間郡越生町(おごせまち)の佐藤酒造店
越生梅林や越辺川(おっぺがわ)などの自然に囲まれた場所に位置しております。

こちらでは蔵元六代目 佐藤忠男さんの娘 佐藤麻里子さんが女性杜氏を務め、弟の佐藤徳哉さんが専務を務める酒蔵になります。

現在では「越生梅林」「中田屋」「まりこのさけ」などの銘柄のお酒を醸しています。

10代の頃は家業である酒造りをするということは考えてもみなかったということですが、蔵に入ることを決意し、現在では酒造りにのめり込み離れられなくなり、日々試行錯誤をして新しいチャレンジを続けている麻里子さん。

麻里子さんの杜氏になってからの10年間の中でのチャレンジ、そしてこれからのチャレンジについて色々伺っていきたいと思います。
また姉の麻里子さんを支える弟・徳哉さんにもお話を伺いました。

佐藤酒造店の歴史

佐藤酒造店では以前、「万代菊」「魁雪」という銘柄がありました。

「万代菊」は、元々佐藤酒造店は新潟出身ということで、「万代橋」という有名な橋から命名し、初代から販売。

「魁雪」「雪に魁(さきがけ)て、梅の花が開く」という意味で、越生梅林にある樹齢700年もの梅の木から命名。
「魁」という文字はお相撲さんの魁皇さんが出てくるまでは当用漢字に載っていたかったために読めず、覚えてもらうことに苦労されたとのこと。

「越生梅林」は昔から愛されている主銘柄
現在の蔵元・佐藤忠男さんが「越生梅林」という名の銘柄をつくれないかということで、約10年かかって取れたとのことです。
そこからは主銘柄を「越生梅林」にしたそうです。

麻里子さんが蔵に入り、杜氏になってからは「まりこのさけ」「中田屋」ブランドをつくり、販売するようになりました。

閉業?存続?の中で姉弟の覚悟

2015年に佐藤酒造店は蔵をリニューアルされました。
しかし、この蔵のリニューアルの裏には話し合いがあったそうです。

というのも2011年3月11日に起きた東日本大震災。
老朽化が進んでいた中、こちらの影響も受け、酒蔵ではヒビや瓦のずれなどの被害に遭われたとのことです。
この被害をきっかけに、この蔵で造れるだけのお酒を造り、その後は閉業も視野に入れ、家族会議をする日々。

その時お二人はまだ学生だったとのこと。
祖父母は続けてほしいという思いがあった一方で、父母は年々高齢化も進み、国内消費量が落ち込んでいる現状などを考えると、「子供たちは別の世界に進んでくれたら」という思いもあり、自分たちの代までで終わりにしても良いという思いだったようです。

麻里子さんと徳哉さんはその時に、「私たちの代で歴史ある酒造業を終わりにしたくない」という思いから継ぐことを本格的に決意しました。
そこで祖父と父も麻里子さんと徳哉さんの強い思いを受け、酒蔵の刷新をすることにしたそうです。

そして2015年5月に酒蔵のリニューアルを終え、新しい蔵と新体制での日本酒造りが始まりました。

新体制での新しい日本酒造り|杜氏・佐藤麻里子さん

ーー「まりこのさけ」「中田屋」はどのようなイメージでつくられたのですか?

佐藤酒造店のモットー「ふくらみがあり後味の軽い酒」となっています。
このモットーをぶらさず、「喜怒哀楽の場面にそっと寄り添えるような優しいお酒」というコンセプトのお酒を造りたいと考えました。
また、日本酒初心者や女性、同世代の仲間たちに取ってもらえるお酒を造りたいというのも考えていました。

その第一弾として造ったのが「まりこのさけ」なんです。
ラベルに漢字が書いてあるTHE・日本酒を女性が買うとなると、周りの目が気になると思うんですよね。だからこそ見た目は良い意味で日本酒っぽくない、飲み終わった後も花瓶などにも使用できるようなデザインにしました。

この「まりこのさけ」は杜氏になって一年目・二年目…とシリーズ化し、毎年販売していたのですが今年10年目の節目を迎えたこともあり、またありがたいことに「まりこのさけ」シリーズを楽しみにしてくださる方も多くいらしたので、2024年から定番化しました。

第二弾として造ったのが「中田屋」です。
屋号である「中田屋」を銘柄として販売。ラベルデザインも一から考えました。

「中田屋」では、私たちの使用している黒山三滝伏流水や私の造り方にどのようなお米が合っているのかを試したくて、基本的な造り方や酵母は同じで、使用する原料米を変えて造ろうと思いました。
色は私がお米の特徴から感じた色のイメージにしています。
「山田錦」は銀色で、「五百万石」は青かなと思ったり、「彩のきずな」はピンクだ!って感じで決めています。
今後はお米で分けるのではなく、精米歩合別に色を変えようかと考えています。

ーー今後はどのような商品展開や目標を今はお持ちになっておりますか?

「越生梅林」は今では主銘柄ですので、味わいは変えず、多くの方に手に取っていただけるようなラベルデザインに変えました。
「中田屋」では地元の水と私たちの造りにあった、酒造好適米や県産米などを模索していきたいと思っております。色々なシリーズが生まれるかと思いますので、シリーズごとの味の違いを感じて欲しいです。

あとは地酒蔵として地元の活性化にも貢献してきたいと思っています。
そのためには日本酒だけでは日本酒好きの方しか訪れない。
飲食店を併設させたり、川が酒蔵の裏手にあるのでBBQ場設置したりすることで、私たちのお酒を飲んでいただく機会を増やし、街の活性化にもつなげていきたいです。
色々なアイデアがあるので、一番お客さんにとって、街にとっても良いものを形にできればいいなと思っております。

今後も越生町や埼玉県などと協力して、活性化の一端を担っていきたいです!!

杜氏の姉と二人三脚での日本酒造り|専務・佐藤徳哉さん

ーー専務の徳哉さんは元から酒造りをしようと考えていたのですか

酒造りのことは考えていませんでした。
父と母は昔から継いで欲しいというのがなかったためか、大学は好きなところに行っていいよと言っていて、私は研究がしてみたいと思ったので理系の学部に入りました。
ですが、ちょうど3年生の時に蔵を続けるかの家族会議があり、その時に姉と二人三脚で継ぐことを決めました。

それまでは化学系を学んでいたのですが、酒蔵を継ぐことを決意し生物寄りの研究室に入り、微生物関係の研究をしました。
たまたまなのですが、研究室で教授の補佐をしている方が酵母の研究をされており、サブテーマとして酵母の研究を一緒にやってくださることになりました。

その後、正式に東洋大学工業技術研究所の産学連携プロジェクトとして生命工学研究室と弊社が連携することになりました。

・第一弾が学内に自生していたホトケノザから分離された花酵母を使った「越生梅林 エスティNo.1」
・第二弾が学内で自生していたヤマユリから分離された花酵母を使った「越生梅林 エスティNo.2」
・第二弾と並行して進めていた、自社梅園の梅の花から採れた「梅酵母(白梅)」を使った「うめのはな -Hakubai- 」

大学で研究した分野を現在の酒造りに活かせたことは良かったです。
今後も私達の酒造りに合う酵母があれば積極的に試してみたいです。

佐藤酒造店の目指すところ〜美酒求真〜

酒造りの経験がほとんどない状態から杜氏となった麻里子さんと専務・佐藤徳哉さん。
お二人が醸すお酒は地元だけではなく、全国にも広がってきております。

今後も全国的に佐藤酒造店のお酒は広まっていくことでしょう。
若い姉弟を中心として造られる日本酒をいち日本酒ファンとしても追っていきたいと思います。

酒蔵情報

直売店でしか買えないお酒もありますのでぜひ足を運んでみてください!!
2024年は、創業180周年。特別なサービスがあるかもしれません!?

  • 酒蔵佐藤酒造店
  • 場所::〒350-0405 埼玉県入間郡越生町大字津久根141-1
    [html]https://www.google.com/maps/embed?pb=!1m18!1m12!1m3!1d3228.922511934531!2d139.2752062110519!3d35.973319872379655!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x60192c9b3637322f%3A0xcac3992fa9d79497!2z44CSMzUwLTA0MDUg5Z-8546J55yM5YWl6ZaT6YOh6LaK55Sf55S65rSl5LmF5qC577yR77yU77yR4oiS77yR!5e0!3m2!1sja!2sjp!4v1714199981600!5m2!1sja!2sjp[/html]
  • TEL:049-292-2058
  • 直売店営業時間:
    9時00分〜17時00分
    定休日は酒蔵HPから確認してください。
    ※店舗は酒蔵に併設
  • HPからのオンライン購入も可能です
    URL:http://satoshuzou.co.jp/eshop.html
  • Sake journal運営者

    多くの人に大好きな日本酒の魅力を伝えたいと思い「Sake journal」を開設。

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