微生物が日本酒の味に大事?
日本酒作りに大事な酵母の役割

日本酒の基礎

日本酒は近年時代の変化と共に多種多様な飲み方や味わい、香りなど日々進歩をし続けています。
そんな日本酒の原料は米・米麹・水なので、味や香りの違いは米や製造方法によって変わるのではないかと思う方が多いと思います。
しかし、米以外にも大事になってくるのが微生物の「酵母」なんです。
酵母によって、同じ原料、同じ製法の日本酒でも味や香りが変わってくるのです。
今回は酵母の種類や役割について説明していきます。

酵母は日本酒の製造において非常に重要な役割を果たします。
酵母は、麹が行った糖化によって生成されたブドウ糖をアルコールと二酸化炭素に変えるための発酵を担当します。この過程によって、アルコール度数と風味が生み出されます。

酵母の種類や株によって、日本酒の風味や香りが大きく左右されます。
異なる酵母株は異なる香りプロファイルを生み出し、それぞれの酵母が特有のフルーティーさやエステル、アミノ酸、アルコールなどの風味をもたらします。

酵母の働き方やその他の条件によって、日本酒は清酒(せいしゅ)または濁り酒(にごりざけ)に分類されます。
清酒は、発酵後に酒かすが取り除かれ、透明な酒となります。
一方、濁り酒は酵母や他の微生物が含まれることによって濁り、風味が豊かでクリーミーな味わいを持ちます。

酵母の活動は発酵の進行を制御するためにも重要です。
酵母の数や繁殖速度、発酵温度などを調整することで、日本酒の風味や品質をコントロールすることができます。

このように日本酒において、酵母は欠かせない存在なのです。

代表的な酵母は大きく分けて4種類あります。
協会(きょうかい)酵母・大学で開発された酵母・地方自治体開発の酵母・蔵つき酵母

協会酵母は、「日本醸造協会」が各蔵に提供している清酒酵母です。
その名が示す通り、この酵母は協会が頒布しているもので、協会酵母は、その高い発酵能力や品質の優秀さから、多くの酒蔵で採用されています。
また、酒蔵が酵母を独自に培養する必要がないため、生産過程の簡素化にもつながっています。
以下の表ががきょうかい酵母になります。

酵母番号分離年分離場所特徴成り立ち
1号1906年兵庫県灘低温でも強力な醗酵力、濃醇な酒を醸造櫻正宗から分離
2号1908-1911年京都市小さな真円形の細胞、食い切りがよく濃醇な酒を醸造月桂冠から分離
3号1914年広島県三原変性により使用中止醉心から分離
4号1924年広島県変性により使用中止不明
5号1923年広島県西条吟醸香が高く、形態が他の酵母と区別しやすい賀茂鶴から分離
6号1930年秋田市低温でも強い発酵力、80年以上にわたり安定した性質を維持新政から分離
7号1946年長野県諏訪清酒製造で広く使われ、醗酵力が強く普通酒にも使われる真澄から分離
8号1960年協会6号の変異株、1978年に頒布中止協会6号の変異株
9号1953年熊本県吟醸酒に向き、酸が少なく香気が高い熊本酵母から分離
10号1952年茨城県水戸酸が少なく吟醸香が高い、吟醸酒や純米酒に向く副将軍から分離
11号1975年アルコール耐性が強く、大辛口酒に適している協会7号の変異株
12号1965年宮城県吟醸酒向きで、特有の吟醸香を持つ浦霞から分離
13号1979年頒布中止
14号1996年金沢国税局生成される酸が少なく、綺麗な味の仕上がりとなる金沢酵母から分離
15号1996年秋田県上立香の華やかな酒を造るのに向くAK-1酵母から改名

表のきょうかい酵母から派生した泡なし酵母というものがあります。
これは普通の酵母は発酵時に泡が発生するのですが、突然変異により泡が発生しなくなったものになります。
泡が出ると、泡が出てお酒のタンクから吹きこぼれないようにする泡守り(あわもり)が不要になる点や、泡が出ない分多くの酒を作ることができるのです。

酵母名特徴用途
協会601号協会6号と同じ性質だが、醪で高泡を出さない酵母。清酒や他の醸造プロセスに使用される。
協会701号協会7号と同じ性質だが、醪で高泡を出さない酵母。清酒や他の醸造プロセスに使用される。
協会901号協会9号と同じ性質だが、醪で高泡を出さない酵母。清酒や他の醸造プロセスに使用される。
協会1001号協会10号と同じ性質だが、醪で高泡を出さない酵母。清酒や他の醸造プロセスに使用される。
協会1401号協会14号と同じ性質だが、醪で高泡を出さない酵母。清酒や他の醸造プロセスに使用される。
協会1501号通称「K15号酵母」。カプロン酸エチルの非常に高い芳香を出す。低温長期型もろみ経過をとり、特定名称清酒に適する。清酒、純米酒、吟醸酒の製造に使用される。
協会1601号通称「K16号酵母」。酸度が少なく、カプロン酸エチル高生産性で、純米酒や吟醸酒に適する。清酒、純米酒、吟醸酒の製造に使用される。
協会1701号通称「K17号酵母」。発酵力が強く、酸度はK7号酵母と同程度。酢酸イソアミル及びカプロン酸エチル高生産性。清酒、純米酒、吟醸酒、低濃度酒の製造に使用される。また、ブレンド用にも用いられる。
協会1801号協会1601号と協会9号の交雑により作出された酵母。エステル高生産性酵母で、香味の改善を図る。清酒、純米酒、吟醸酒の製造に使用される。また、酸及びアミノ酸生産性が少ないため、品質の向上に貢献する。

その他にも種類はありますが、一部まとめましたのでご参考に!

酵母名特徴用途
28番酵母リンゴ酸高生産性多酸酵母。リンゴ酸が有機酸の80%を占める。発酵力が強く華やかな香り。多酸酒、増醸酒、貴醸酒、長期熟成酒、低濃度酒に適する。多酸酒、増醸酒、貴醸酒、長期熟成酒、低濃度酒の製造に使用される。
77番酵母リンゴ酸高生産性多酸酵母。リンゴ酸が有機酸の70%前後を占める。カプロン酸エチル高生産性。多酸酒、増醸酒、貴醸酒、長期熟成酒、低濃度酒に適する。多酸酒、増醸酒、貴醸酒、長期熟成酒、低濃度酒の製造に使用される。
50番酵母協会1701号と同様な高エステル生産性清酒酵母だが、酸度がやや高め。清酒の製造に使用される。
赤色清酒酵母ソフトな当たり口のピンク色の濁り酒を造るために使用される。ピンク色の濁り酒の製造に使用される。
K10号酵母カプロン酸エチル高生産性で、突然変異によって原酵母から酵素ホスホリボシル-イミダゾールカルボキサミドシンテターゼが欠落し、赤色素を生成する。赤色清酒の製造に使用される。
KArg-901号日本醸造協会が輸出用清酒向きに開発。協会9号の変異株で、尿素を生成しないのが特徴。輸出用清酒の製造に使用される。
KArg1901号協会1801号の尿素非生産株で、カルバミン酸エチルを生産せず、酒質を維持するために開発。酒質を維持しつつ、発がん性がある可能性があるカルバミン酸エチルを生産しないため、製品の安全性向上に貢献する。
KArg9号日本醸造協会が輸出用清酒向きに開発。協会9号の変異株で、尿素を生成しないのが特徴。輸出用清酒の製造に使用される。

大学の研究により開発された酵母は、日本酒の製造において重要な役割を果たしているのです。
その中でも、東京農業大学が開発した「花酵母」は特に代表的です。

花酵母は、さまざまな花に生息していた酵母を研究者が分離し、その酵母を培養して作り出されます。東京農業大学の研究チームは、桜やひまわり、マリーゴールドなど10種類以上の花から酵母を分離し、それぞれの酵母の特性を調査しました。
これにより、花酵母は多様な花のエリアから採取された酵母の集積であり、それぞれの酵母が独自の特徴を持っています。

花酵母の特徴は、使用された花によって異なりますが、一般的には華やかな香りを引き出す傾向があります。
例えば、桜から分離された花酵母は桜の花の香りを、ひまわりから分離された花酵母はひまわりの花の香りを、それぞれ日本酒に与えることができます。
これにより、花酵母を使用することで、日本酒に特有の花の香りや風味を付与することが可能となります。

花酵母の開発により、日本酒の多様性がさらに拡大し、より個性的な味わいの酒が生み出される可能性が高まりました。
これは日本酒製造の新たな可能性を切り拓くとともに、酒造りの伝統を未来に引き継ぐ上で重要な一歩です。

各自治体で開発された酵母は、その土地の気候や風土、食材などの特性を活かして研究され、地域の酒造りに活用されています。
例えば、山形県では山形酵母が開発されています。

山形酵母は、山形県内の自然環境に育まれた酵母であり、香り高く爽やかなお酒を造り出すことができると言われています。
この酵母は、山形県の特産品や地域の気候風土に合わせて選抜・培養されたものであり、山形県産の米や水との相性が良く、品質の高い清酒を生み出すことが期待されています。
また、山形酵母はフルーティな香りがあり、爽やかで心地よい味わいが特徴です。

他にも、福島県では「福島酵母(うつくしま夢酵母)」広島県では「広島吟醸酵母」などが開発されています。
これらの酵母も、それぞれの地域の特性を反映した味わいや香りを持ち、地域の酒造りにおいて重要な役割を果たしています。

地域ごとの酵母の開発は、地域の伝統や文化を尊重しながら、新たな酒造りの可能性を模索する試みでもあります。
これらの地域特産の酵母を使用することで、地域の酒造りの振興や地域経済の活性化にも貢献しています。

蔵つき酵母は、日本酒蔵の床や壁、樽などに自生している酵母のことを指します。
この酵母は、しばしば「家つき酵母」とも呼ばれます。

蔵つき酵母は、地元の土着の酵母を酒蔵が自ら培養することで利用されます。
これには手間がかかる上に、酵母の特性が年によって変化することや、樽によっても味が安定しないというデメリットがあります。

そのため、かつては日本酒の醸造において主流でしたが、近年は日本酒協会などで供給される標準化された酵母(きょうかい酵母)の普及により、蔵つき酵母を使用する蔵が徐々に減少しています。
しかし、蔵つき酵母はその蔵独自の酵母であり、その蔵だけの味わいや香りを生み出すことができるため、一部の酒蔵では依然として採用されています。

また、蔵つき酵母とは異なり、酒造会社が独自で開発した酵母、「自社酵母」を使用している酒造・銘柄も存在します。
これらの酵母も、その会社独自の技術や品質基準に基づいて開発されており、特有の味わいや香りを醸し出します。

日本酒造りにおける大事な酵母について、今回はお伝えしました。
日本酒好きの方でも、酵母にまで注目されている方は多くないかと思います。
注目されない酵母ですが、日本酒のさまざまな味わいや香りを引き立たせる重要な存在ということを少しでも理解したいただけたかなと思います。
他にも日本酒造りの中で重要な要素は沢山あります。
知れば知るほど日本酒は面白く楽しく飲めるので、是非参考にしてみてください!!